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Report: Manami Sato’s one week site-visit in Aberdeen (JA)

北海道夕張市清水沢地区で炭鉱遺産を活用したまちづくりを展開する「清水沢プロジェクト」の代表、佐藤真奈美さんのアバディーンにおける約一週間の視察滞在が無事終了しました(2018年11月13日〜11月19日)。

本事業はスコットランド・アバディーンを拠点にインディペンデントキュレーターとして活動する自分が今年6月に夕張を訪ね、視察ならびに地域の方とディスカッションを行ったことに応える形として企画されました。ブリティッシュ・カウンシルとクリエイティブ・スコットランドのパートナーシップ助成と、ピーコック・ヴィシュアル・アーツ、ロバードゴードン大学、アバディーン市からの協力があって実現しました。

夕張は石炭、アバディーンは石油・ガスと、両都市とも「化石燃料によるエネルギー産業に大きく寄りかかっていた、あるいは現在も寄りかかっている」という共通点があります。今回の事業はその共通点を起点に両都市の歴史的文脈や地域が抱える課題などをフィールドワークを通じてリサーチし、意見交換を行い、二都市間の関係を深め、未来に向けた末長い、特に文化・芸術分野における交換・交流プロジェクトを行う可能性を探る、という狙いがありました。

短い滞在ではありましたが色々なところに行き、色々な人に会って、意見交換をすることができました。

視察1日目:まずはアバディーンという場所を地理的、風土的、文化的に眺め、把握するため徒歩でアバディーン内のあちこちを歩いて回った。
・アバディーン市トリー地区
・ピーコック・ヴィシュアル・アーツ
・アバディーン市オールドアバディーン地区
・「Underpinning_how to be closer」に参加(カナダ出身アイスランド在住作家Juliane Forondaさんによる展覧会。アバディーン在住作家Kirsty RussellさんによるキュレーションでKirstyさんの自宅を会場に行われた。)

視察2日目:アバディーン州のとなりの州にあるアーティストインレジデンス施設「ホスピタルフィールド」を訪ね、かつて地域を支えていた産業がなくなった後、という共通文脈のなかで地域との関わり方や文化・遺産の活かし方などについて意見交換を行った。
・アンガス州アブロースにある文化・芸術機関「ホスピタルフィールド」で施設見学とプレゼンテーション

視察3日目:アバディーンにおける海事の歴史や現状を専門家の解説とともに案内。ピーコック・ヴィシュアル・アーツでのメインイベント開催
・アバディーン海事博物館(ロバートゴードン大学メイボンレズリー博士による解説)
・地元メディアThat’s TVによるインタビュー
・ピーコック・ヴィシュアル・アーツのプロジェクトスペース「W OR M」でロバートゴードン大学メイボンレズリー博士を交えてのプレゼンテーションとディスカッションイベント

視察4日目:ピーコック・ヴィシュアル・アーツで国外からゲストを招いて行うイベントの2回目。夕張とは違う文脈・方法で「コミュニティ」を作る例を見た
・ピーコック・ヴィシュアル・アーツのプロジェクトスペース「W OR M」でベルリンを拠点に活動する「The Palace Arts」のイベントに参加

視察5日目:アバディーン州内の違う街でもともと地域を支えていた産業が去った後「The Town Is The Venue(町そのものが会場)」というモットーでアーティストインレジデンスやワークショップ、地域でアクションを起こす国際的なプロジェクトなど様々な活動を行っている「Deveron Projects」を訪ね25年かけ現在では約80もの作品が町中に点在する「タウンコレクション」の一部を見て歩くツアーに参加
・アバディーン州ハントレーにある「Deveron Projects」で「タウンコレクションガイドウォーク」に参加

視察6日目:アバディーン内で行われている地域住民主導のプロジェクト事例や、特に「下層地域」のように見られ汚水処理場や廃棄物処理場などの建設予定地にもなりがちな地域における行政との付き合い方?交渉術?戦い方?などを学んだ
・アバディーン市トリー地区で地域住民とともに活動するRachel GrantさんとDavid Fryerさんに会う(彼らの大気汚染モニタリングプロジェクト(https://www.theairwebreathe.net/)や、Davidさんが中心となりトリーの地域住民とともに立ち上げた財団(https://www.torrydevelopmenttrust.org.uk/)の活動について)

視察7日目:石油ガス産業に傾倒する傾向のあるロバートゴードン大学において、地域を支える大きな産業がなくなったときの想像すること、それをすでに経験している夕張の事例を紹介することで社会学を中心とする専門家と意見交換をした
・ロバートゴードン大学でメイボンレズリー博士のレクチャーシリーズ「Daily Life in Northern Japan」内でプレゼンテーション・ディスカッション
・ロバートゴードン大学キャンパス見学

こうして一週間真奈美さんとあちこちを共にする中でアバディーンやスコットランドのことはもちろん、お互いの活動やお互いの街の状況などについてもより深く知り学ぶ機会となりました。

今まで多くのアーティストが清水沢プロジェクトを訪れ滞在や作品制作をしたりしているとはいえ真奈美さんご自身の専門やバックグラウンドは地理学や産業遺産を活用する観光のあり方なので美術にはありません。ただ自分から最初にした提案が「未来に二都市間でアーティストのエクスチェンジを行えないものでしょうか」ということだったためどうしても文化・芸術を中心とした人物たちとのディスカッションが多く、自分もその現状や悩みを話す場面が多くありました。専門外の会話も多かったと思うのですがさすが地形や川の流れを見て環境や文化を読み解いていく地理学者、真奈美さんは真摯に耳を傾けてくださり、第三者からの目線で見て、聞いて、いろいろとメモをして、考えてくださいました。そんな真奈美さんが視察滞在も終盤の6日目の夜にアバディーンの文化・芸術シーンについてこうおっしゃいました。「きっと、アバディーンには、土壌がないんだと思います」。あっけないけれど、その一言に集約されているように感じました。夕張は炭鉱ができたことで興ったいわば歴史という「土壌」のない街。そこを活動拠点にする真奈美さんだからこそ特に敏感に感じ取れたことかもしれません。

アバディーンは中世からある古い街で文化やものづくりの歴史も古く、70年代に北海油田が見つかる前は造船業や漁業、農業などで支えられていた土地でありますが、やはり油田発見による街の方向転換や成長の仕方があまりに急速で、パワフルで ー 私個人はここにアメリカ的で男性的なものも強く感じますが ー 街の人の考え方やものに対する価値の付け方は180度変わり、ある意味でリセットされてしまったのだろうと思います。ものを利便性やそれがいかに資本をもたらすものであるかという価値基準で判断するクセをつけてしまった街は、本来寡黙で働き者の北東スコットランド人も持っていたであろう小さく、ゆっくりとしたものに対する興味や支持、そして背伸びせず、威張らず、地に足のついた態度のようなものを次第に失っていったのだろうと思います。問題は、このクセが産業だけでなく日々の生活や文化・芸術の分野にまで浸透しており今も強くみられるということです。昔の欧米にあったようなパトロン制はほぼ見られなくなり、関連の就職口も少なく、各種助成金の倍率も非常に高い文化・芸術、特にいわゆる「絵画」や「彫刻」の姿をしていないことも多い「現代美術」は資本を生まない、あるいは大変生みにくい分野です。つまりものを利便性やそれがいかに資本をもたらすものであるかという価値基準で判断するクセの強い街アバディーンには資本を生まない文化・芸術、特に現代美術なぞは根付く土壌がないのです。街を納得させるにはよりゼロの多い数字をもって資本的価値やそれによる街への経済効果を提案・証明しなくてはいけません。

共通点の多い夕張とアバディーンですが、大きな違いは夕張では1990年までには鉱山のすべてが閉山していますが、アバディーンでは石油ガス産業はまだ現役であるということです。2014年から2015年にかけて石油価格がガクンと下がったため、撤退企業は増え、多くの人が職を失い、売り家の看板も多く見られるようになり「アバディーンの石油ガス産業は終わる」と危機感を伴って言われるようになりましたが、2018年末の現在は石油の価格が大分持ち直してきており、「北海に石油はまだまだある。少なくともあと40年は大丈夫だ」という楽観的な見方も徐々に戻ってきました。ただスコットランドでは政府が2050年までにエネルギーの供給元80%を再生可能エネルギーにする目標を掲げており、いつか必ず枯渇する化石燃料に寄りかかることは我々の子供や孫の世代のことを考えても、早急な対応が必要とされる地球温暖化の問題の側面から見ても時代に抗った方向性ではないかという意識は市民の間にも強くあります。夕張でも「炭鉱は閉山したが石炭はまだまだあるんだ」という意見を聞くことも多いということでした。

ただ、化石燃料が次世代や地球に良くないということと、化石燃料に関わる産業が育んできた文化や遺産に誇りをもって再発見し活用する、ということは別のことと思います。真奈美さんはこうもおっしゃいました。「今回会った人には炭鉱遺産に誇りをもつという概念が伝わってなかったような気がした」。残念ながら真奈美さんの滞在中に実際に石油掘削に携わる、あるいは携わっていた、という「炭鉱マン」ような石油マン?掘削マン?のような方に会って話を聞くことは叶いませんでした。彼らが実際どのような思いで仕事に従事しているかは分からないですが、日本と違い「仕事は単に生活するためにやっていることで自分の本当の人生はアフターファイブや休暇にある」と考える人の多い英国ではあるものの、誇りや愛着を持って仕事をする人も少なからずいると思います。閉山したから、失敗したから、時代遅れだから、地球に良くないから、ということですべて忘れ、消し去って、次へと移るのではなく、その産業が地域や国を支えたおかげでこうして今も豊かな我々の生活があるわけで、その産業がもたらした良かったこと良くなかったこと、地域の経験、関わった人々の記憶、地域に遺る遺産を再び見つめ、そこを起点に経済、観光、文化、まちづくり、産業、などなど様々な方向にディスカッションを広げることができると思います(特に記憶や経験は具体的な形として残りにくいので再び見つめなければ消えていくだけだろうと思います)。そのディスカッションから地域が地域を学ぶことにつながり、その地域に最も相応しい未来のビジョンも見えてくる可能性があると思います。個人的にはそういう分野を超えたディスカッションのきっかけづくりこそ文化・芸術、特に現代美術の得意分野で、出る幕があるのでは、と思っていますが、、。

とはいえ、具体的にどうしたらいいのか。どういう形で夕張ーアバディーン間で文化・芸術のエクスチェンジを行なえる可能性があるのか。

まだまだ考える必要がありますが、真奈美さんと話したのは形、大きさ、分野は今はカチッと決めず、現時点ではもっとオープンにしておいてもいいのではないか、ということ。例えば当初の提案通り人(例えばアーティスト)のエクスチェンジをすることができれば確かにインパクトや影響としては一番強いのですが、やはり人の行き来が絡んでくると、受け入れる方も行く方もお金も労力も負担もかかりますし長く続けていくという面では不安もあります。分野を美術に限ってしまうのも今は早いかもしれません。おそらく一番大切なのは今回真奈美さんと自分の間で行なった両地を訪ねるエクスチェンジ、そしてディスカッションを細くとも長く続けていくことだろう、とお互い考えは一致しました。背伸びせず、小さく、ゆっくり、でも丁寧に、長く。これは私が自分自身の活動の中で目指しているところでもあるので、この感覚を真奈美さんと共有できたことは本当に嬉しく思っています。とはいえ、その形はどういう形になるか、文章の形なのか、スカイプを通じてなのか、手紙なのか、メールなのか、写真なのか、動画なのか、、真奈美さんはじめ夕張の皆さん、アバディーンの仲間たちと考え続ける必要は大いにありそうです。

アバディーンを発った後、ヨークを経由しウェイクフィールドで「国立炭鉱博物館」へ行き、その後はシュールズバリーにある世界遺産「アイアンブリッジ」ならびにエコミュージアムとなっている周辺地域を合わせて見学、そしてやっとこさでロンドンー羽田ー千歳と飛行機を長時間乗り継いで帰国した真奈美さん。心身ともに疲労のピークであると思いますが、本当にお疲れ様でした!なんやかんやと引きずり回してしまいましたがとてもたのしかったです。改めて引き合わせてくれた夫で研究者のレズリーに感謝です。また真奈美さんと会える日を今から楽しみにしています!

メイボン尚子